第228回佐保カルチャー

 ー第18回佐保塾史跡めぐりー

   奈良には古き仏たち(3)」ー長谷寺と安倍文殊院を巡るーを開催しました

 

   講 師 : 鈴木喜博氏(奈良国立博物館名誉館員)

   日 時 : 平成29年10月20日(金)

   参加者 : 52名

      主 催 奈良女子大学同窓会 佐保会奈良支部

      共 催 奈良女子大学同窓会 一般社団佐保会

 

 鈴木喜博氏の人気の仏像シリーズ3回目は、今、注目を浴びている快慶にスポットを当て、長谷寺と安倍文殊院を訪ねました。大阪・兵庫・滋賀など他府県からの参加者と一緒に、バスに乗って、一路長谷寺へ。多くの古典文学に登場するこの寺は、729年に創建され、その後7度の火災にあい、ことごとく焼失しましたが、その度にすぐに再興され、現在に至っています。寺伝によると、近江国高島郡から流失した樟(くす)の巨木が各地で災いを呼び、霊木として恐れられましたが、なぜか長谷まで運ばれ、観音像として祀られることによって祟りを鎮め、人々をまもる仏になりました。これが本尊の十一面観音であり、古代からの「巨木・霊木信仰」の一つと考えられます。建物と共に本尊も何度も焼失し、1219年には快慶が製作しましたが、残念ながらこれも焼失しました。現在の本尊は1538年東大寺の実清(じっせい)がプロデュースし、僅か1か月で作られたそうです。十メートル余もある目を見張るような大きさは、木造の十一面観音像としては日本一です。何度焼失してもすぐに再興されたのは、長谷寺の財力と時の権力者の援助によるものであり、長谷の観音信仰の篤さを物語っています。

 次に訪れたのは、安倍文殊院。国宝の渡海文殊菩薩群像(五体)を間近に拝観してお話を伺いました。本尊の騎獅文殊菩薩像は高さ7メートルで日本最大です。また、これら国宝五体の像のうち、四体は鎌倉時代の快慶作ですが、文殊菩薩台座の獅子と左後の最勝老人像は安土桃山時代の作です。「緊張というキーワード」で見る時、その違いは歴然としています。その他にも、今にも歩き出しそうな動きある快慶作の善財童子と、他寺の善財童子との違いなど、興味深いお話に時間が経つのを忘れるひとときでした。

 この日は、一日中、雨模様でしたが、山の斜面に建つ長谷寺の舞台に立つと、雨にけむる山並みは、より一層、私達を幽玄の世界へと誘い入れ、安倍文殊院に咲くコスモスは、しっとりとした風情で私達の心を包み込んでくれました。